「スザク、今日はどちらへ?」 「少し散歩してきます。夕食までには戻るので」 「わかりました。気をつけて」 「はい」 今日もスザクは外へ出ていく。ここしばらく、昼食をとったあと、夕食前までの一日でいちばん長い時間をスザクは外で過ごすようになった。外の世界。それは、ルルーシュの計り知れない遠い世界だ。スザクが誰とどこで何をして、何を思い、その長い時間を過ごしているのか、知る術などなかった。 ルルーシュとスザクは同じようでいて、決して同じではない。スザクはユーフェミアにとってひとりの「家族」。一方、ルルーシュは「家族」であって「家族」ではないのだ。 『今日から私だけの存在になってくださいな』 かつて、彼女はルルーシュにそう望んだ。彼女の願いによって得た命。だから、ルルーシュは彼女の家族であって家族ではない。「所有物」なのだと自覚している。ゆえに、自由に外へ出ることは許されていない。 そうして毎日、青い空の広がる扉の向こうへ消えていくスザクの背中を、ただただ憧憬を込めて見つめる続けるばかりだ。 こんな状態になる前、ルルーシュは自分でも対処しきれない感情を持て余していて、ただスザクの視線から逃げるようにして距離をとっていた。それに気付いたスザクに弁明を求められたけれども、どう説明していいのか分からなかった。失われた言葉はそのままふたりの溝に。あれ以来スザクはルルーシュを見ようともしない。対等だったはずのふたりの距離はいつの間にか大きく開いてしまった。 最初に手を伸ばしたのはルルーシュ。手をとったのがスザク。 しかし、今では手を伸ばしても重なる掌はない。 そんな日々がずっと続いている。ルルーシュがスザクを避けていた日々を含めると、とても長い間まともに言葉を交わしていないし、視線をあわせてすらいない。同じ“不自然”な命を抱え、同じ屋根の下で暮らしながら、誰よりも近しい存在だったはずの存在が、とおい。 スザクが遠ざかってしまって初めて、ルルーシュは自身が彼に対してした行為の残酷さを思い知った。近かったはずの存在。伸ばせば取られる手。それがいかに大切な存在だったのか。最初にその存在をスザクから奪ったのは他ならぬ自分だ。同じように奪われた自分には彼を責める権利などない。 けれど。 (このままでいいはずが、ない) いつものように、昼食を取ったあと玄関に立つスザクに対し、渾身の力をふりしぼって呼び掛けた。 「スザク!」 「……なに」 冷たいばかりの声音にひるみそうになる心を叱咤して言葉を続ける。 「……今日はどこ、行くんだ?」 「…僕がどこへ行こうと君には関係ないだろ?」 「俺、も!一緒に行きた「あら?スザク。今日もお散歩ですか?」 「ユ、フィ…」 はかったように言葉を切られる。 「はい。また夕食までに戻ります」 「わかりました。いってらっしゃい」 「……気を、つけて」 スザクはルルーシュとは違う。自由が許されている。それを羨んでルルーシュが奪うことは許されない。だから、ルルーシュには見送る以外の選択肢なんて残されていない。スザクまでルルーシュと同じ檻の中に引きずり込むことはできない。 なのに。 気をつけて。その言葉は届いたはずなのに。 「…ルルーシュ……?」 小刻みに震える指が、しかしスザクの服の裾を掴んだまま離さない。 半ば無意識に伸ばした右手に気付き、ルルーシュは自分でうろたえた。 「…ッ!!す、すまない!」 怯えたように潤む瞳が揺れ、そのまま伏せられた。俯いてすくめられた肩は震えている。 はぁ、とひとつ溜め息をつくと、スザクは開いていたドアを閉じてルルーシュに向き合った。 「……どうしたの、ルルーシュ。落ち着いて」 肩をとり、ルルーシュの自室へ連れて行くことにする。ついてこようとするユーフェミアに対して微笑みを浮かべて柔らかく拒絶を示した。傷ついたようにこわばる彼女の様子には見て見ぬふりをする。 「ルルーシュ。さ、行こう?」 やっと伸ばされた手の導くままに、ルルーシュは歩みを進めた。肩に触れる温度に泣きそうになる。それは、すがってはならなかった手。それでも、一度繋がった記憶がなくならない限り、もう手放すことなどできはしないのだ。 届いた声と届かなくても良かった右手 「いか、ないでくれ…スザク、残されるのはもう……いや、なんだ」 (09.02.21) |