エ ス ポ ワ ー ル










「シャーリーは誰かをすきになったことは?」
「なななななんでそんなこと突然!?」
 ルルーシュの唐突な質問に泡をくって動揺するシャーリー。しかし、ルルーシュはいたって真面目な表情だった。
「……ルル、誰か好きな人でもできた?」
 シャーリーが問うとルルーシュは黙り込んでしまう。
「わからない、んだ。すきって気持ちが。ユフィは初めて会ったときから俺を好きだと言ってくれる。そのとき脳に響くあの感じがすきという感情なのはわかる。でも、それ以上がわからない。どんな気持ちになるのか。……そもそも“人”でない俺には知る必要がないものなのかも知れないが」
「そんなことないよ!ルルは私たちと同じように笑うでしょ?ちゃんと心があるの。それに…スザクくんは?」
「スザクは……俺とは違うから。多分、すきなひともいる、し」
「え!そうなの!?」
「アンドロイドの感情は電気信号という形では知覚できないから、俺の推測でしかないが…おそらくは」
「そっか…。でも、すきって気持ちは心が成長すれば自然とわかるようになると思うよ?人だって初めはそんなのわかんなくて、大人になるにつれて知っていくの。だからルルも焦らなくて大丈夫だよ!」
「そう…なのか…。ありがとう、シャーリー」
「またいつでも相談くらいのるからね?私はいつだってルルの味方なんだから!」
 ルルーシュがほころぶようにして笑うと、シャーリーもまた嬉しそうに笑った。穏やかすぎるほどに平和な午後のひととき。








 ルルーシュと目が合わない。
 それがただの思いすごしという域を脱しているとわかって以来、ふつふつと湧きあがる苛立ちとも哀しみともつかない感情を持て余していた。初めて会ってからずっと、毎日一緒に暮らして穏やかな関係を築いてきたつもりだった。アンドロイドにしかわからないことも、自分とならばルルーシュも分かち合うことができる。それはどんなにユーフェミアやシャーリーがルルーシュを慈しみ、分かち合いたいと望もうと、根底の部分にある大きすぎる隔たりのために達しがたく、無条件で手にできるのはスザクだけのはずだった。
 もやもやとしたものを抱えたままダイニングルームに向かう。ユーフェミアはどんなに忙しくても、3人でそろって夕食をとることを望むからだ。
 あたたかい食事の用意された食卓が目に入る。そしてその前には既に着席して歓談するルルーシュとユーフェミアの姿。ルルーシュとの間にまともな会話がなくなってからどれだけ経っただろうか。おだやかなその横顔を見ていると、自然拳に力が入る。
(僕が何をしたっていうんだ…!)
「ユフィ、お待たせ」
「あら、スザク。はやくはやく!折角のローストビーフが冷めてしまうわ」
「はい」
 席につき、手早くナプキンを膝元に広げながら隣に座るルルーシュを盗みみる。先ほどまであれほど楽しそうに話していたというのに、既にその影すらもない。スザクがいるだけでもう笑えないというのか。ユーフェミアとふたりきりでないと駄目だと。
 苛々とささくれだつ気持ちのままに食事を口に運ぶ。やわらかく焼かれたローストビーフはとても美味しいはずなのにひどく不条理な味がした。よく咀嚼することもせずに飲み込み、ろくに会話をすることもなく早々に食事を切り上げる。
「ごちそうさまでした」
 空になった食器を前に手を合わせ、席を立とうとするとユーフェミアが「ちょっと待ってて!」といって席を立って行ってしまう。なんなんだろうか。ここで勝手に出て行ってしまっては面目が立たないので待つことにしたものの、部屋にはスザクとルルーシュだけ。沈黙が重たい。


「……ルルーシュ、」
 いたたまれなくなって名を呼ぶと、細い肩が過剰に震えた。
(本当に、いったい僕が何したっていうんだ!)
 過剰に反応するくせに、ルルーシュは意地でもスザクをみようとはしない。
「ルルーシュ、僕のことそんなに避けて…僕、君に何かした?それともあれ?ずっとユフィとふたりっきりだったのに邪魔者の僕が来て迷惑してるって、そう言いたいの?」
「ち、ちが…!」
 そのときになって初めてルルーシュがスザクを見る。揺れる紫。
「なら、最近の君の態度について僕に分かるように説明してよ」
「…………それ、は…」
「スザク、ルルーシュ、お待たせしました!」
 軽快な足取りで戻ってきたユーフェミアによってルルーシュのことばが遮られる。
「今日はバレンタインデーなのよ?ふたりに私からプレゼント!」
 かわいらしく包まれた袋を差し出してくるユーフェミアに笑顔で礼を述べ、受け取る。ルルーシュもまた「ありがとう、ユフィ」といって受け取っている。ほのかに浮かべた微笑は、しかし僕の視線に気づいた途端こわばって失せてしまう。
「ス、ザ「ユフィはお返しは何がいいですか?」
「スザクが選んでくれたものならなんでもいいわ」
「わかりました。来月、楽しみにしていてください」
「ええ。ありがとう!」
 そのまま、食卓に背を向けて部屋を出ていく。背後からはふたりの声がする。取り残されてしまったような、冷たい孤独が胸をつかんだ。
「ルルーシュは何をくださるかしら」
「…考えておきます」




ねぇ、どうしてこっちを振り向かない?





『大丈夫ですか』
『ルルーシュです。よろしく』
 伸ばされていたはずの手は、いつの間にかもうそこにはないのだと、気づいてしまった。






(09.02.19)