エ ス ポ ワ ー ル










 シャーリーが足しげくユーフェミアの屋敷に足を運んでは3人でお茶会をするようになり、また約束通りに夜会は月に一度開かれるようになった。それまでの、まったく外の世界との接触がない生活からは信じられないほどの刺激があった。シャーリーの話す世界は輝いていたし、夜会にやってくる人々の多さとその多様性に初めこそ驚きはしたものの、すぐに慣れて興味深く観察した。
 そんな生活がしばらく続き、外の世界への好奇心は募っていった。ルルーシュの本心は、屋敷の外へ出ることを求めていたが、その頃にはユーフェミアにそれをいうことができなくなっていた。彼女は、ルルーシュが外の世界の話をするとき、ひどく哀しげな顔をすることに気付いたから。
 そんな日々が続いたある日。朝から初めてみる来客があった。若葉色の長い髪と黄金の瞳をもつ、ひどくうつくしい人。しばらくユーフェミアと言葉を交わした末、ユーフェミアは仕方がないといった風に肩をすくめて相手から手紙を受け取った。
 なんなんだろう、とルルーシュが見ていると、話し終えたふたりがルルーシュの方へくる。
「ああ、おまえがルルーシュか」
「…そうですが」
「スザクと仲良くしてやってくれよ」
 そのまま颯爽と立ち去るその人の背中に向かってユーフェミアが叫んだ。
「ちょっとC.C.!あなた、これからどこへいくつもり?」
「そうだな、少し世界を旅してまわってみるかな。そういうわけだから、頼んだぞユーフェミア。達者でな」


 その夜開かれた夜会でスザクに出会い、彼を含んだ3人の共同生活が始まったのだった。


 スザクは今までルルーシュが接してきた人とは異なっていた。近しい存在はみな、「人間」だったが、彼は違った。ルルーシュは自分と同じ「アンドロイド」という存在を初めて認識したのだ。
 だからといって、アンドロイドも日常の生活では普通の人と変わらない。人と同じように食べて寝て起きて笑う。触れ合えばどこまでも尽きないあたたかさがある。
 どれもそれまでの自分がしていたことだったし自分にあるものだったが、改めて自分たちという存在の、人との近しさを感じていた。










「ユフィはシャーリーとはいつからの付き合いなんですか?」
 食事の席で、スザクは気さくにユーフェミアへ話しかける。
「そう…あれは、私がプライマリースクールに入学した年の夏に、プールを外からずっと見ていたのね。プールって憧れだったのだけど、お姉さまが危ないから入っちゃ駄目だって…。そしたら、すごく上手に泳ぐ女の子が私のほうに来て、一緒に泳ごうって誘ってくれて」
「その女の子がシャーリー?」
「そう。やっぱり私はシャーリーほど上手には泳げなかったけど、水の中はすごく気持ちよかったわ」
 ルルーシュはふたりのやりとりをどこか遠くで聞いている。
「…ルルーシュ、どうかした?大丈夫?」
 ふと頬に触れた温かい手に意識を引き戻した。翡翠が心配そうにルルーシュを見つめている。
「どこか具合が悪いのかしら。お医者様を呼びましょうか?」
「大丈夫です。ありがとう、ユフィ。スザクも」
 ユーフェミアは以前のようにルルーシュに感情を率直に告げることはしなくなった。おそらくスザクが一緒にいるからなのだと、ルルーシュは思う。ふたりきりになれば、前と変わらないあの不思議な波動を感じるから、言葉などなくてもわかった。彼女は俺のことが好き。
 大丈夫だと告げてもまだ、スザクは心配そうにルルーシュの目をのぞきこんでいる。この身体は普通の病気になどなるわけがないのに。それは同じ身体をもつスザクならよく分かっているはず。でも、向けられるやさしさが触れている頬から伝わってくるようで、それは心地よかった。
「…本当に大丈夫だよ、スザク。病気になるわけないってわかってるだろ?」
「わかんないよ?僕らの身体はすごく精密にできていて、繊細なところがあるもの」
「でも大丈夫だ。ほら、食事が冷める」
「そう、だね」


 それから黙々と食事をとり、食べ終わったところでふとスザクを見た。
「ユフィ」
「なんでしょう?スザク」
「ちょっと失礼します」
 ナフキンを手に取ったスザクがユーフェミアに手を伸ばす。口元をそっと拭うと「これで大丈夫です」と笑った。ルルーシュの胸の奥でチクリとした痛みが走る。
 ユーフェミアに初めて出会った日のことを思った。やさしく微笑んだ彼女はルルーシュに好きだと告げた。いま、目の前でスザクはやさしく微笑みかけている――ユーフェミアに。
 スザクは、ユフィのことが好き、なんだろうか。
 では、俺は?いまだよくわからない感情。すき、とはどんな気持ちなのか。心に形があればわかるのだろうか。
 痺れたようにじわりと痛む胸をそっと手で押さえ、からっぽになった食器へと視線を落とした。




彼は彼女が好きで彼女は俺を好きで俺は、





 やさしさが胸を苛むだなんて、そんな矛盾、






(09.02.10)