泣き叫ぶ妹を痛ましげに見つめるコーネリア。その少し離れた場所で倒れた二つの小さな身体に近づき、膝を折った。 「……これは…シリアルナンバーがない、ということは不法製造か」 つまり、ロイドに頼んだものではないということだ。ロイドの研究所は政府の認可した合法施設だ。 合法施設で製造されたアンドロイドを廃棄する際には、規定の手順にのっとり、その稼働の実態を国が把握しなければならない。しかし、もともと国が管理しきれていないいわゆる闇の産物――不法製造のアンドロイドには規定の廃棄手順というものが存在しない。 動かないルルーシュに取りすがる妹をしばらく見つめていたコーネリアだったが、やがて彼女をその躯から引き離しにかかった。離れたがらないユーフェミア。その細い指からは思いもよらない強い力でルルーシュの手を握りしめて離さない。 「ユフィ、いい加減にしなさい!」 声を荒げると、ユーフェミアはきつい眼差しを姉に向けた。 「お姉さま…お姉さまはひどいです!こんなこと…ルルもナナリーもみんなだいすきだったのに…!!」 「いいか、ユフィ。おまえが知らないだけで、アンドロイドは人と違うんだ。人の能力を超えた力はいつ脅威になるかもわからない」 「知らないのはお姉さまのほうです、みんなやさしくて…怖いと思ったことなんて、」 「…良いから、もう離れなさい。これはロイドのもとに送り返して廃棄処分しなければならない」 「っ、廃棄、処分…!?」 そんなのだめ、と首を振り拒絶するユーフェミアに、コーネリアは大きくため息をつくといったん目を閉じて間をおき、次の瞬間鳩尾に拳を打ち込んだ。だらりと弛緩したユーフェミアにすまない、とつぶやき、抱きかかえると部屋を後にした。 * 「スザクさん!スザクさんてば!!」 ロロの意識が戻ったときには、傍らで倒れ臥したまま動かなくなったナナリーと、放心したように座り込んだまま動かないスザクだけが散乱した部屋の中に取り残されていた。ユーフェミアとルルーシュの姿はあの、ユーフェミアの姉と共に消えている。 いくら呼んでも揺さぶっても反応を見せないスザクに、ロロは最悪の事態を悟った。 (兄さん、は…もう……) ロロの小さな身体ではスザクとナナリーのふたりを担いで逃げることはできない。一瞬の峻巡の後、動かないナナリーだけをなんとか担いで逃げ出した。ナナリーとはかりそめの命を受ける前から共に在った。どんな風に破棄されてしまうかもわからない場所に置いていくことはできなかった。アンドロイドに天に還る命はないのだとしても、その死がただの消滅に過ぎないのだとしても、その眠りの穏やかなることを祈るものがいるなら、墓は必要だと思うのだ。 ロロは息を吹き込まれてからの短くも密度の濃かった日々を思い出していた。降りしきる雨に風が混じって嵐の様相を呈している。 風が強かったあの日、空は青く、吹き乱れた薄桃色が見たことのないうつくしさで、ナナリーとふたりはしゃいで、そんな自分たちを兄とスザクが目を細めて見守ってくれていた。穏やかでしあわせで、かがやいていたあの日。 この先何年経っても、春がめぐるたび、忘れることなく何度だって思い出すだろう。あの日のサクラのうつくしさを。 (そうだ。ナナリーをあのサクラの樹の根元に眠らせてあげるんだ) 思いついた考えはとても良いものに思えたけれど、あの場所は遠い。戻るならば、また長距離列車に乗るほか術はない。 「ナナリー、」 瞼を閉じ、まるで眠っているかのようなナナリーの顔は見えない。背におぶったまま静かに、それでいてやさしく語りかけた。 「必ず僕があの場所に連れていってあげるから」 きっと、ロロはナナリーにとってもうひとりの兄であったのだと思うから。 雨に濡れるのも構わず歩き続け、駅に到着した。切符を2人分買って列車に乗り込む。動かないナナリーを怪しまれないよう、窓際にナナリーをもたせかけると隣りに腰をかけた。濡れてしまった身体を応急的にタオルで拭うとやっと落ち着くことができた。 まさか、こんなにすぐに引き返すことになるとは思ってもいなかった。ボックス席の向かいにルルーシュとスザクが座っていたのを思い出して胸が痛くなる。 (そう、だ。兄さんは…兄さんは、もう、) 二度と会えない。初めてできた兄も、ナナリーも、みんなロロの手の届かない所へいってしまった。切迫した現実にとにかく動いていた身体が途端にずん、と重たくなる。喉がつまったように苦しくて喘いだ。目頭が燃えるように熱い。なのに、涙は流れない。アンドロイドには、機械には、流す涙などいらないのだろうか。吐きたいほどに感情が暴れまわっているのに。 目を閉じると瞼の裏にはやさしい日々の光景。眠ってしまえば苦しみからは逃れられる。でも、その代わりにこの光景も失われてしまう。 ――アンドロイドは夢をみない。眠りの先にあるのは、夢さえ届かない無ばかり。 (ひとが羨ましいよ) なぜなら、彼らは眠りにおちた先の夢で失ったものと相見えることができるのだから。夢を見られないアンドロイドにはただただ冷えた現実ばかりが腕を広げて待っている。 (兄さんも、ひとになりなたかったの…?) 脳裏でやわらかく微笑んだ兄は口を開いたけれど、意識ははらはらと舞うようにとけおちた。 初恋は雪のようにはらはらと消えた 「ロイドか?アンドロイドをそちら宛てに送っておいた。認可施設で製造されたアンドロイドを破棄する場合は施設にかえす、規定を忘れたのか?アレの名前?…確か、ルル…ああ、そうだ、ルルーシュだ。ったく、ユフィにあんなものを吹き込むとは勝手なことを…!!ん?アレと一緒にいたアンドロイド?茶色のくるくるした髪のならいたが。………なに、ラクシャータの研究所で?…わかった、そういうことなら軍で一旦拘束し、話を聞く。ラクシャータの行方を追うのは重要事項だからな」 (09.06.06) |