おまけ


「あ、一君じゃん!」
 集会場所に現れた斎藤に、平助が声をかければ黙って首肯が返ってくる。
「今日は土方さんが海岸沿いに走りに行くかってさ」
「そうか」
 斎藤と平助が短くやり取りを交わしていると、斎藤の背後から「あーれー?」と間延びしたわざとらしい声がかかる。
「一君、珍しいもの持ってるじゃん。これ、どうしたのさ?」
 斎藤の横手に回った沖田が、斎藤が左手に持っていた紙の手提げ袋の中身を覗きこんでいる。
「総司…!」
 斎藤の制止も聞かず、勝手に手を突っ込んだ沖田は、透明のラッピング袋(中は空っぽ)を摘み出した。
「――斎藤君、これ、どうしたの?見たところ、カップケーキでも入ってたようだけど…売り物じゃないよね?」
 沖田の鋭い指摘に、斎藤はぴくりと肩を揺らした。
「え!買ったんじゃないなら、一君、女の子にもらったとか!?な、どこの誰だよ!なぁ〜!!」
「っ、これは…」
(くっ!俺としたことが…捨てるに忍びないからといってわざわざ持ってくる必要などなかったではないか…!)
 猛烈に己の行動を悔いながらもどう切り抜けようとかと思考を巡らせる斎藤に、沖田が最後の一撃を落とした。


「どうしてわかったんだって言いたげだね?――斎藤君、ついてるよ」
 にやり、と笑った沖田が己の指で自分の唇の端を指し示した。

「カップケーキ。その辺で食べてたの?一君がマスク外してるのってすっごい久しぶりだよね」
「っ!?」
 指摘されて初めて、斎藤は自身がカップケーキを食べたままマスクをつけ直していなかったことを思い出した。こんなこと、本当に久しぶりだ。
 慌てて口元を拭い、ケーキのくずを取る。
「ホントだ!一君がマスクしてないのって初めて見たかも!オレ、チーム入ったの一君より後だったしなー」
 一見したときには気づかなかった平助が「別にマスクしなくてもいいじゃん!」と笑う中、斎藤は慌ててマスクをつけ直してしまう。
「えー、もうつけちゃうのかよー」
「このマスクは、もはや俺にとっては衣服の一部と変わりない」
「なるほど。つまり、一君はさっきまで服も着ずに往来を歩いてきたってわけだ?」
 斎藤の肩に腕を回した沖田がニヤニヤと面白そうに笑いながら揚げ足を取ってくるので、乱暴にその腕を振り払う。
「総司。そろそろ黙れ」
 キッと鋭い眼差しでにらまれた沖田は、「おお怖い怖い」とわざとらしく肩をすくめて離れていったのだった。



(2010.11.25初出→2011.05.29再録)
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