エ ス ポ ワ ー ル










「やっぱりきみは、ソッチ側にいってたんだねぇ?ラクシャータ」
「私に何の用だい?こんなところにわざわざ呼び出して」
 ルルは戦場で再び稼働停止に陥っていた。いちはやくそのことに気づいたロイドは、己の技術の粋を集めて作り上げたアンドロイドを軍に連れ帰った。今回の破損は戦闘によるものだ。“ルル”を取り戻すだけならば、ロイドにもできる。でも――。
 アンドロイドを肯定する敵方にラクシャータがいることに気づくと、秘密裏に彼女と連絡を取り、現在ふたりはとある廃倉庫で対面していた。
「――きみはこのアンドロイドを見てどう思う?」
「この姿……。ロイド、あんた、こんなものを作ってたのかい?これはまるで初代の「そうだよぉ?マリアンヌ様が愛した初代アンドロイド・ルルーシュの姿形に似せた、僕のルルーシュ」
「で?あんたのルルーシュと私を呼んだことと、何か関係があるんだろ?」
「ルルーシュは一度自分のメモリを破壊して稼働停止したんだ。それで、僕は破壊されたメモリをできる範囲で修復してこの子を作り直したわけだけど、以前の記憶が不完全で、瞳の色も、紅になってしまった。――僕、こう見えてもルルーシュの高貴な紫玉の瞳を気に入ってたんだけどねぇ」
 ラクシャータはロロとナナリーを作った研究者だ。生まれながらに完成された知能と感情をもつアンドロイドの追究をするために、政府の認可施設を去って姿をくらませた。いうなれば、アンドロイドの脳に関する超一級のスペシャリスト。もし“ルルーシュ”を取り戻せるとしたら、それはこの世界にただ一人。彼女しかいない。
「それで、あんたの手に負えないから私の手を借りようって?」
「だ〜いせ〜いか〜い!!……この子は、君が作ったスザクくんのことが“すき”らしくてねぇ?それに、失踪後のきみが作った双子のアンドロイドとは“兄弟”だって笑ってたよ。アンドロイドなのに、もう、彼は本当の“ひと”のようだった」
「……」
 しばしの間、ロイドの足元に横たえられたアンドロイドを見つめていたラクシャータだったが、ついにロイドを見て宣言した。
「しばらくあんたのルルーシュとやらを借りるよ?いいかい」
「もっちろん〜!」


*


 季節はめぐる。時は流れる。
 人間がどんなに愚かなことをしようと、自然は歩みを止めはしない。
 軍の内部抗争に端を発した戦はまたたく間に世界を席巻し、その戦況はアンドロイドを大量に投入した肯定派――今では新たなる軍部を名乗る派閥側にあった。
 そして長く短い戦争の終結の兆しが見えた春。
 C.C.に諭され、いったんはロイドの元へ戻ったスザクだったが、既に戦場に駆り出されたルルの行方を知らないと白を切るロイドに絶望し、膝を折ってしまった。そこへ、ロロを連れたC.C.が現れ、「こいつはもともと私のものだったからな。引き取らせてもらう」と、スザクを連れてその場を後にしたのだった。二度にわたって大切な存在を喪ったスザクは、以後一言も口を利くことなく、ただの人形のように先を行くふたりにつき従うばかり。


「春…だな」
 C.C.の呟きに、ロロは立ち止まった。一年前の春、ロロのそばにはナナリーと兄とスザクがいた。
『ロロ、ナナリー、静かにしないとスザクが起きるだろう?』
『でも外がすっごくきれいなんです!!』
『お兄さま!早く外に見にいきましょう!!ね、ロロも一緒に!』
『うん!兄さんはやく!!』
 初めてみるサクラに心踊らせた日。手にした穏やかなしあわせがずっと続いていくものだと信じて疑わなかったあの日。
「今頃、あのサクラの木も咲いてるかな…」
「サクラ…。ああ、私がお前を拾った場所か」
「だから、拾ったって言わないでください!」
「わかったわかった。まあ、あそこにはお前が作った墓もあるんだし、次の行き先にするか」


 そうして、サクラのもとに辿り着いたロロは、その根元に盛られた土の前で膝を折った。
「ナナリー、ただいま。…見える?今年のサクラもすごくきれいだ」
 語りかけるロロの隣に立ったC.C.は、おもむろに、どこからか取り出した箱から一切れのピザを切り離すと、その質素な墓に手向けた。
「美味いピザの味を知らないままでは、人生損をしているからな」


 ただただ現実味のないまま、ぼんやりとロロたちの後をついてきていたスザクは、視界の端をかすめた輝く白に、ようやく焦点を現実に定めた。
「……ゆ、き…?」
 しかし、段々と広がった視界に、咲き乱れるサクラを見つけ、間違いに気づく。
「サクラ…か」
 肌身離さず持ち続けていた紙をポケットから取り出す。そっと開けば、一年前にルルーシュの髪から取ったサクラの花弁。風が吹けば飛んで行ってしまいそうな儚さで。
「っ、ルルー、シュ…」
 守れなかった。確かに、あの日、守ると己に誓ったのに。
 久方ぶりに記憶の波が押し寄せてきて、目頭が熱くなる。でも、アンドロイドは泣けない。
「なん…で…っ!!」


 唇を噛みしめたとき、ざざーっと、嵐のような風が吹いた。
 慌てて手元の紙を折りたたもうとしたけれど、一足遅い。舞いあがった花弁を追うように視線を、あげた。その時――。


「――光の蝶、みたいだな」
「っ!?」
「……久しぶり、だな」
「ル、ル…?」
「いや、俺は“ルルーシュ”だよ……スザク、」
「思い…出した、の?」
「“素直なスザクがすきだよ”」
 柔らかく微笑むその瞳に、不気味な月の禍々しさはない。かつてスザクが飽きず見つめた、至高の色。アメジストに似た、
「“…僕も、ルルーシュのことがすきだよ。ずっとずぅっと、だいすきだ”」
 かつて交わした言葉をそのままなぞると、ようやく彼をルルーシュが帰ってきたのだと実感する。
「おかえり、ルルーシュ」
「――ただいま、スザク」
 隙間なく抱き合ったふたりは、しばしの間、互いの胸の鼓動を分け合った。


 ふたりの再会を見守っていたロロは、ふと足元のナナリーの墓を見た。
 彼女が導いてくれたのだろうか。ロロは思う。
 一通り、喜びを交わすふたりを眺めたあと、そろそろ頃合いだろうとばかりに、ナナリーとC.C.のそばを離れ、大切な“兄”のもとへ向かって駆けだした。




 喜び、悲しみ、怒り、苦しみ。過ちを犯しながらも、愛することをやめない。
 そんなことができるこころを、誰がまがいものだなどと言ったのか。
(お前たちは皆、かなしいまでに“ひと”だよ――)
 かなしい人間の性が生み出した、かりそめの命を燃やして笑う三人を見て、C.C.は静かに目を細めた。


 せかいのおわりの大地に、変わらず芽吹くサクラの花。
 ナナリーの眠るサクラの樹の下、僕たちはまた、であう。




せかいのおわりをながめた




 エスポワール、希望。
 希望は、絶望のいろをしていたのかもしれない。






(10.09.30//完結)
遅々とした更新に付き合って最後までご高覧いただき、本当にありがとうございました!