「まぁ…これが本当に人ではないのですか?」 「ええ。そうは見えないでしょう?」 「本当に。どうして命がないのか不思議なくらい」 「かりそめの命なら、お望みのままに吹きこめますよぉ?」 薄暗い研究所。浮き上がるのはひるがえる白衣と薄桃のドレス。 ドレスをまとった少女はその細い指を顎に添える。ドレスよりも鮮やかな桃色の髪が一筋、その顔に落ちて色づく唇にかかる。そして、その可憐な口元が言葉を紡いだ。 「私は私だけの存在が欲しいんです」 「あなただけの、ねぇ…」 「あなたならどちらを選ぶのかしら?ロイド」 「結局のところ、最終的な決定要素は本人の好みなんですけどねぇ。……僕の個人的な意見としては…とりわけ、この子の瞳の高貴な色が気に入ってるんですよぉ」 ロイドが指した先には、黒い髪に華奢な体つきのアンドロイドが透明なガラスの向こうに立っていた。光を帯びないその瞳は鮮やかな紫。虚ろでありながらもどこか怜悧にきらめいている。ロイドの指の示す先を追ったユーフェミアはしばし言葉を失う。あまりに整った容貌だった。人形めいた、というのはある意味正しい。なぜなら“彼”は命なきアンドロイド。人ではなく、人型のつくりものなのだから。 「あは!どうやらお気に召したようですねぇ?」 「……ロイド。“彼”に名前はあるんですか?」 「それはもう、もちろん!“ルルーシュ”という名前が」 「ルルーシュ…」 「彼にぴったりの良い名前でしょう?」 「ええ、本当に」 ユーフェミアが“ルルーシュ”に歩み寄り、ガラスに触れる。冷たい透明な壁の向こうで立っている姿は、血が通っていないといわれてもにわかには信じがたいほどの精巧さ。命を吹き込まれた“彼”はいったいどんな風に動き、どんな声で話すのだろうか。 「ロイド、私、決めました!私にルルーシュをくださいな」 言いながら、ユーフェミアが振り返った先には、珍しくまじめな顔をしたロイドの姿があった。 「アンドロイドは人ではありません。でも、一たび人の手で命を吹き込めば、彼らは動き、話し、食べ、そして眠る。人と同じように。かぎりなく人に近しく、それでも決して人にはなれない存在が彼らなんです。命を吹き込まれた彼らは喜びも悲しみも知ることになる。その責任は、他でもないあなた自身が負うことになるんです。彼らの“命”はすべて、あなたの選択の上に成り立つものだということ、それをこの先彼らの“命”が続く限り背負い続ける、その覚悟はあるかな?」 「あります。ルルーシュのすべては私が負います」 「おーめでとーございまーす!そしたらルルーシュは後日送り届けますから〜」 すべては選択から成り立つ 「はじめまして、ようこそルルーシュ。私はユーフェミア。ユフィと呼んでくださいね」 「……ユフィ…?」 「はい!」 落ち着いた、しかししっとりと艶のあるテノールがためらうように口にした己の名は、これまでで最もいとおしくユーフェミアの耳をうった。 (09.02.05) |