花の守人




 あたたかな日差しの中で斎藤と二人並んでお茶を飲む。のんびりと時間が過ぎていくこのひと時は斎藤と千鶴、二人にとって大切な時間だった。斎藤にとっては、新選組幹部としての斎藤一という自分を忘れられるひと時。千鶴にとっては、すべてを知っている人間、そしてとても細やかな気遣いを見せてくれる人の傍で“普通の女の子”として過ごせるひと時。事情は多少違えど二人とも本来の自分に戻れる時間だ。

「良いお天気ですね…」
「あぁ。今日は日差しも温かいな…」
「洗濯物も良く乾きそうで…」
「…眠いのか?」
「少しだけ…こんなに暖かいんですもの…」

 ほわっと小さく欠伸をした少女を優しく見つめていた斎藤は、近づいてくる足音に顔をあげた。その動作に気づいた千鶴も何とか表情を引き締めて斎藤と同じ方向を見つめていると、どこか苦い表情を浮かべた土方が歩いてきた。
 縁側に並んで座り、どこかまったりとした雰囲気を醸し出している二人の姿を確認した土方は、小さく息をついて傍による。立ち上がろうとした斎藤をそのまま手で制して、斎藤とは反対側の千鶴の隣に腰かけた。

「いかがされました?」
「いや、休憩だ。千鶴、悪いが茶、淹れてきてくれるか?」
「あ、はいっ。斎藤さんもお代わり淹れてきますね」
「すまない…」

 立ち上がって土方と斎藤の茶を淹れるために勝手場に向かった千鶴の背を見送った土方と斎藤は、どこか気まずい空気を漂わせていた。主に土方が、二人の邪魔をしてしまったかと思っていたのだが、斎藤は何も言うことなく黙り込んでいる。ないがしろにしているわけではない。とくに話すことがないのだ。
 ふと、土方が斎藤に目を向けた。何を見ているのか只管に庭を見つめて千鶴が戻ってくるのを待っている姿を見ると、どこかおかしく感じる。

「最近、千鶴の様子はどうだ」
「…時々、元気がないように見えます。うまく隠しているつもりのようですが…」
「あいつに隠し事は無理だな」
「はい…無理はしていないようなので様子を見ている状態ではありますが」

 新選組の副長は、鬼だと恐れられているが一度懐に入れた人間に対しては心を砕く。千鶴の気がかりはもちろんいまだに行方の知れない父親のことだ。そのことに関しては斎藤も土方もどうすることも出来ない。だから、それ以外のことで心を痛めているのならばできうる限り取り除いてやりたいと、あの少女を見ていると思うのだ。
 どこまでも一生懸命で、皆が気持ちよく、心地よく過ごせるようにと気を配る彼女であるから。

「そうか…」

どこか苦笑にも似た笑みを零して、土方は頷いた。鬼には珍しく柔らかな笑みだ。


 パタパタと軽い足音が聞こえてきてその方向に目をやると盆に急須と湯呑を三つ、そして羊羹が2切れ。とてもうれしそうな表情を浮かべた千鶴が戻ってきて、斎藤と土方の口元が緩む。本当に、愛らしい少女だと思う。

あたたかな空気を湛えてお待たせしましたと朗らかに笑う少女を視界の端に収めて斎藤はまた庭を眺めた。千鶴が新選組預かりとなって、庭に花が増えた。それは千鶴の心が少しでも癒されるようにと斎藤が増やし始めたことで、それを土方も黙認している。最近では千鶴自身が時々京の鬼姫に花の苗を分けてもらい庭に花を増やしている。だがどれも派手な花ではなく、無くてもかまわないがあっても困るものではない程度の花。

「先程近藤さんにお羊羹いただいたんです!!とっても美味しそうですよ!」

笑顔でそう差し出す羊羹は2切れ。土方も斎藤もどこか毒気を抜かれたような表情を浮かべて羊羹の皿を受け取る。斎藤はすぐさまそれを千鶴に返した。

「俺はいい。お前が近藤さんにもらったのだからお前が食べろ」
「いえ…私は皆さんにお世話になっている身ですので…それに斎藤さんいつも私の話を聞いて下さるのでそのお礼です」
「しかしこれはあんたが近藤さんにもらったものだ、味がどうだったかを聞かれたらどうするつもりだ」
「で…ですが、そしたら斎藤さんの分が…」

そのやり取りを呆れたまなざしで見ていた土方が小さく息をついて自分の羊羹を1/3切り分け、千鶴の口元に持ってきた。

「え…あの…」
「俺はこれだけしかやらねぇよ」

 そう言って千鶴に口を開けさせて1/3に切った羊羹を千鶴の口の中に入れて、自分の羊羹を食べ始めた。一瞬だけ斎藤に視線をやると、どこか悔しそうな表情を浮かべながら、それでも納得しように自分の羊羹を黒文字で切っている。
 1/3の大きさの羊羹を食べてほっとお茶を飲んでいる千鶴の口元に先程食べた羊羹と同じくらいの羊羹が運ばれる。今度は斎藤だ。戸惑いながら斎藤を見上げると静かに一つ頷く。少しだけ頬を赤く染めながらもおずおずと口を開き、羊羹の甘さに頬を緩める。そんな少女を見ながら斎藤もまた残り2/3の羊羹を食べ始めた。


「甘くって、美味しいですね…」
「あぁ」
「そうだな」


甘く、そしてほろ苦い。
花の守人の庭での茶会は静かに続いていった。





ツイッターでの成分分析から派生してほのぼの成分5倍なお話を汐さんからいただい隊士!最近棚ぼた一杯で秋穂はしあわせです^v^(そんな私の成分はエロスでした★←)
にしても副長のスマートさはさすがというか…斎藤さんが心酔する人ですからね、副長は!でも千鶴ちゃんに関してだけは負けたくない斎藤さんも頑張ってます。千鶴ちゃんに赤面させられるのは斎藤さんだけ!!なんておいしい…!
互いの隣でだけ本来の自分に戻れるという斎藤さんと千鶴ちゃんの関係性にもときめきました。
花を植えたりお茶を飲んだり、始終ほのぼのしあわせな斎千土をどうもありがとうございました!!

汐さん宅↓



(2010.11.14)
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