※アニメ19話ネタバレSSS、斎←千+土。 数多の武士の魂が会津の土地に眠りゆく――。 斎藤さんにとっての「武士の魂」がどんなに大切なものなのか。 また、「武士」であることが土方さんにとって――新選組のみなさんにとってどんなに大切なものなのか。 それを知らなかったわけではない。 短くない時を彼らと共に過ごしてきた。その時間は、彼らにとっての「武士」や「誇り」を女である私に知らしめるに十分なものだったのだと思う。 だから。 ――俺が残ります。 斎藤さんがいった言葉は、彼の信念に必要な選択だったのだと思う。それと同時に、土方さんの心情を慮った言葉でもあったと。 容保公は、新選組に会津をおいて仙台へ向かうよう指示された。ご自身は会津に残り、最後まで徹底抗戦することを決めて。それに従うわけにはいくまいと反駁する土方さんに、二度目の「命令」が下された。 ――これは、総督としての命令だ。 大鳥さんの言葉には、たとえ土方さんであっても逆らうことができない。状況は、奇妙な程にあのときと酷似していた。守りたいと思う存在。近藤さんを守れない。下される、逆らえない命令。 では、今、土方さんが守りたいのは何だ。新選組という組織を庇護し、「武士」として生きられる場を与えてくれた会津藩、そしてその頭である松平容保公。なのに、当の容保公は会津を捨て、仙台へ行けという。 もはや、近藤さんなき新選組において、土方さんは「局長」であり、「武士の道標」であるその身は、己一人の意思を通すことなど許されない。「武士」として、会津の地に残り、最後まで戦いたい。そんな、土方さんの叶えられぬ希望を、意思を、代わりに背負って戦うと、彼は決めたのだ。 「死なないでください」 かけた言葉が、どんなに難しいことかは解っていた。斎藤さんは、その身を顧みることなく容保公のために戦うのだろう。彼の背には、盾になって彼を逃がした人たちの命と、土方さんや、散っていった新選組の仲間の想いと、彼自身が守り抜かなければならない信念がかかっているのだから。 自分の命を燃やして「真の武士」として、「誠」の旗を掲げて戦おうとしている人に、大した剣の腕も持たない非力な私が「連れて行ってください」などとは、口が裂けても言えなかった。 ただ、祈ることしか、懇願することしかできない。 死なないでください、と。 ――もちろんだ。…新選組の、名にかけてな。 縋るように、その言葉を耳の奥で反芻する。何度も、何度も。 しかし、去りゆく背中が振り返ることはなかった。 慶応四年九月。 仙台へ向かう行軍中だった。南の空が燃える炎のように赤い。どんなに高価な染料よりも真っ赤な色に染まる夕暮れの空の下、思わず足を止める。遠く響く砲撃の音は、はたして空耳だろうか。 隣に立つ土方さんもまた、遙か彼方、彼の意思を継いで戦う人のいる方角を見つめている。 この地を照らす天道が、その最後の命を燃やして散りゆく魂を悼むかのように天(そら)を染める。 ――土方さんを、頼む。 ――斎藤さん、 叶うことならば、私はあなたの傍で、あなたの選んだ真の武士たる道を見届けたかった。 (2010.11.21) 光炎万丈…光り輝く炎が高く立ち上ること。 斎藤さん生存→明治再会話を書いてみたいです。>>オフ本で書きました! |menu|
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