な  ご  り  う  た





 普段はバイブに設定している携帯の着信音。久々にオフが取れた休日、昼前になりだした音にスザクの心臓は不規則に脈うった。音だけでわかる。久しく耳にしていなかったから忘れてしまっていたと思っていたのに、鳴り出してみれば間髪おかずに反応している自分がいる。
 携帯のディスプレイに視線を落とせば、予想と違わぬ「Lelouch」の文字。


 この音は、1年前に再会して想いを通わせ合った頃の自分の名残だ。着信音にこだわりなどなかったから初期状態のままだった設定を初めて触った。ルルーシュからの着信音だけ、他とは別の音楽を選んだ。眠る前に鳴り出す音楽はそのまま彼の落ち着いた声音と切り替わって僕の鼓膜を心地よく震わせた。そしてその余韻の中まどろみに落ちていく。しあわせだった日々の音。


 あの頃、この音を聞くだけで浮足立つようなしあわせが身を包んだ。それからたくさんのことがあって、バイブの設定を解除することがほとんどなくなった。そうすると、すべての着信はただの機械音と震動。つめたい機械はスザクのこころを震わせない。
 なのに。
 久々に聞いた音に、変哲のないアルファベットの並びに、携帯をもつ手が震えた。
 激しい憎悪に染まったはずのこころは、それでも今なお過去を抱えている。そうして僕のこころは、いまだ君との恋の歌をうたいたいと震えているのだ。君だけにつながっていた過去のうた。今では、凍てた僕らをつなぐうた。


 携帯を手にしたまま迷っていた時間は長かったのに、手の中の振動は止まらない。止まってほしいのに止まってほしくない。矛盾を抱えたまま、通話ボタンを押した。
「……はい、」
『…スザクか?』




(09.02.01//きみとぼくとの恋の名残歌)