※某CMパロ、現代パラレル中学生、病弱ルルーシュ






 バタバタバタ、と複数の足音が階段を駆け上ってくるのが聞こえた。
 よく晴れた空には細い雲がたなびいていて、比較的体調も良かったからベッドの上で上半身を起こしていたときのことだった。

「「ルルーシュ!!」」
「起きてるかー?」
 ノックもなしに開いたドアから入ってきたのは、中学のクラスメイトであるスザク、リヴァル、ジノ。
 三人共、揃いの学ランの胸には赤い花をつけている。そう。今日は中学の卒業式だ。本来なら、ルルーシュも三人と同じように胸に赤い花をつけ、式に参列するはずだった日。
 身体を起こしているルルーシュに、体調は良いのかと尋ねたのはリヴァル。
「ああ。今日は天気も良いし暖かいから。…本当は、俺も学校に行きたかったんだが」

 自然と落ちてしまう声のトーンに、三人は顔を見合わせる。うなずくリヴァルに、スザクが歩を進め、ルルーシュの座るベッドの脇で膝を折った。手には、いつの間にか、手作りとわかる赤い花のバッジ。ルルーシュのパジャマの胸にそっとバッジをとめた。
「今度は君の番だよ。ルルーシュの卒業式だ」
 紫苑色の瞳を見開いて驚くルルーシュを前にスザクたちは横一列に整列し、すっと背筋を伸ばした。

「これより、2009年度、アッシュフォード学園中等部の卒業式を始めます」
 謳うように高らかに響くジノの声。
「卒業証書授与!」
 リヴァルが続ける。
「3年A組、ルルーシュ・ランペルージ!」
 スザクに呼ばれ、ルルーシュは一度胸にとめられた花にそっと触れると、ベッドから立ち上がり、背筋をはって直立した。
「アッシュフォード学園中等部3年A組、ルルーシュ・ランペルージ。あなたは、本校の中等部全課程を修了したことを証する。2010年3月1日 アッシュフォード学園校長 XX XX」
 恭しく差し出された賞状を、両手で受け取った。

「「「卒業、おめでとう!」」」

 三人の声が重なり、ルルーシュは胸の奥が震えた。義務教育だから、卒業はできる。でも、式に参列することのできなかった自分はどこかで置いてきぼりになったような寂しさがあった。それなのに、
「、あり、がとう…みんな」
「みんなで卒業なんだからな!」
「そうだよ!」
「じゃあ、ここらでいっちょ歌も歌っときますか!」
 リヴァルの声に、みなが頷く。
「“仰げば尊し”」
 そして、四人だけの合唱が始まった。そんなにたくさんの日々を学校で過ごせたわけではないルルーシュの胸にも、過ぎ去りし日々が次々に去来する。やさしく、懐かしく、そしていとおしい日々。瞬くように過ぎていった。

 最後まで歌いきると、スザクから卒業アルバムが差し出される。
 パラッと、何気なく開いたのはクラスの集合写真。欠席していたルルーシュは、写真の上の隅に一人だけ、学生証用と思しき写真が四角く浮いている。なんだか、遺影みたいだ。自嘲を浮かべかけたが、すぐ左側に貼られたものに気付いた。ルルーシュが浮かぶ横に、同じくらいの大きさのシール。笑ってポーズをとっている三人のプリクラだった。満面の笑顔。
 指先でそろりと写真の表をなぞった。隣に並ぶ三人の笑顔のせいか、表情のないルルーシュの写真までもがほのかに笑んでいるように見える。
 細かな気遣いがたまらなくて、潤んだ瞳にこちらの様子を伺っている三人を映した。
「本当に、ありがとう。スザク、ジノ、リヴァル」
「私たちはいつも一緒、だろ?」
「そうそう!高等部になってもメンバーは同じだからな!まだまだよろしく頼むぜー?」
「そういうこと、だよ」



 リヴァルとジノは、家族で祝いの食事会があるのだと言って先に帰って行った。
「スザク、お前は帰らなくて良いのか?」
 尋ねると、「うちの親は今日も仕事で帰りは遅いから」と苦笑いが返ってくる。スザクの母親は早くに亡くなっていて、父親は政治家。いつも忙しく働いていて、小さな頃から一人のスザクは、ルルーシュの家で食事を共にすることも多かった。
「じゃあ、今日もうちで夕飯、食べていったらどうだ?母さんもきっと喜ぶ」
「うん。そうさせてもらおうかな」
 アルバムをめくりながら頷いた。三年間の時間がアルバムの中には凝縮されている。見知った仲間の姿を探しながらめくっている間、沈黙が続いていた。

「…あの、さ」「あ、」
 ためらいがちに沈黙を破ったスザクと、ルルーシュの声が重なる。ルルーシュの視線の先には、「仲間からメッセージをもらおう」と書かれたコメントスペースがあり、そこにはリヴァル達からの手書きメッセージと、挟まれた一枚の、写真。写っているのは、教室の机で眠る学ラン姿のルルーシュ。
 何気なく裏返したそこには、お世辞にもきれいとは言えないけれど、几帳面な文字が並んでいた。よく見知ったそれは、

――僕の宝物。特別にあげる。

 ゆるゆると、視線が宙を這い上がっていく。腰の横で握りしめられた手。ゆっくりと上下する肩。固く引き結ばれた、唇。そして、真摯な光を宿す、翡翠。

「……スザク、」
「あのさ、僕、今日はもうひとつ卒業したいものがあるんだ」
 言葉を差し挟むことをためらうような空気。気のせいか、呼吸が苦しいような錯覚に陥り、薄く開いた唇から息を吸い込んだ。
「…僕は、君がすき。ずっと片想いだったけど、男同士なのにって思うだろうけど、やっぱり君のことが、どうしようもなく、すきなんだ」
「…す、き……?」
 音が、意味と結びつかない。ドクドクと、脈打つ血液の音が耳元で溢れ返っているようだ。
「ねぇ、君は…?ルルーシュは、僕のこと…すき?」
 躊躇うようにとられた手が、とても熱くて驚いた。思いつめたように揺れる瞳を見て、ようやく理解する。
(ああ、)


「俺の宝物は、今、ここにいるお前だよ。スザク」
 その胸で光る、金色の第二ボタンに手を伸ばし、唇を寄せた。
「これが、欲しい」
 掻き抱かれた腕の中、早鐘を打つ鼓動を愛おしく聞いた。




片 恋 卒 業 日





(10.03.20//拍手お礼)