※『あの日手折った花の名は、』の続きでホワイトデー、ルルーシュ♀






 夕映え差し込む放課後の教室。そよと吹き込む風の冷たさに目を覚ますと、机に開いた本のページがぱらりとめくれた。
 いつの間にか寝入っていたのだと気付き、周りを見回すともはや誰も残ってはいなかった。
 いまだ眠気の残る身体を起こして帰る支度を整え、教室を出ようとしたところで扉が勝手に開いた。
「あ、ルルーシュ」
「……スザク」
「丁度よかった!ルルーシュに渡そうと思ってたんだけど、さっき来たら眠ってるみたいだったから」
 そういいながら差し出されたのは紫色のリボンで包装された小さな箱。
「…これ、は……?」
「今日はホワイトデーでしょ?バレンタインにもらったトリュフのお返し。すごく美味しかったよ!」
 無邪気に微笑みを浮かべるスザクと箱とを交互に見つめる。
『ん、うまいな!!』
 あの日もチョコの味を褒めてくれたスザク。変わらない、繕わない笑顔。
 変わったのは、
「……今回は、くれるんだな」
「……え?」
「いつの間にか、義理堅くなったんだな」
 俯き、ふ、と口元を歪めてわらった。義理チョコだったと信じて疑わないスザク。気づいてさえもらえない、くすぶる感情は永久に閉ざした蕾のまま。光もないのに水だけが注がれる。
 そんなやさしさ、いたいだけなのに。
(いっそ、昔のように、何の反応もないほうがよかった)
 手に持った箱のリボンに目を落としたまま、冷えていく指先が自分のものではないような錯覚に陥っていた。


「…本命には、もらえたのか?」
 ぽつり。無意識に紡いだ言葉に、視界の隅でスザクの手が震える。
「……あれ、僕、ルルーシュにそんな話したっけ…?」
「有名だろう。お前の告白の断り文句。“ごめんね、僕には昔からずっと好きなひとがいるんだ”って」
「そ、っか。ハハ。…実は、もうずっと長いこと会ってさえないんだよね…」
「ずっと好き、なんだろう?」
 ずきり、傷んだ胸には気づかぬふりして。
「うん。でも、自分の気持ちに気付いたときには、もう遅くて……ずっと、片想いなんだ」
「連絡先は?」
「知らない。ブリタニアとの戦争もあったりで、立場も微妙になっちゃったし…」
「ブリタニア…?」
「うん。実は、その人はブリタニアの皇族で、昔、日本に留学中僕の家にいたんだ」
「、え!?」
 ブリタニアの皇族?――ルルーシュ・ランペルージの本当の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。正真正銘の皇族だ。
 日本留学中、スザクの家にいた?――私は、枢木家に世話になりスザクと出会った。
「名前も見た目もすごく君に似てたんだよ。黒い髪で、紫の目の、「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
「っ!?どうしてその名前…!!」
 見開かれた翠の目を睨むように見つめる。感情の昂りのせいか、うっすらと涙が浮かんできた。
「どうしてもなにも…それは、私だ。どうしてそこまで気付いていてわからないんだ!!」
「え…?で、でも、君は女の子で…あのルルーシュは男の子だったから」
「あれは、本国からの命令だったんだ」
「じ、じゃあ…君が、本当に…あのときの、」
「ルルーシュだよ。スザク」
「る、るー、しゅ」
 噛み締めるように呼ばれた名がくすぐったい。今にも泣き出しそうな、涙もろい姿を見つめながら目元が緩むのを感じた。


「そうそう、そういえば」
「なに?」
「お前に渡したの、本命チョコだったんだが…返事は?」
「っ!!そんなの、もちろん、OKに決まってるよ!!」
「“ずっと好き”だったから?」
「君に会ってからずっとずっと、君だけが好きなんだ!!」

 光が射して、かたく閉ざした蕾が綻んでゆく。

「ちなみに、“チョコ”を渡したのは2回目だからな」
 それじゃあ、まさか!?と驚くのが面白くて、心の底から笑ってやった。ふたりきりの教室に響く声はやがて廊下に移り、そのまま並んで家路につく。繋がれた手のあたたかさに、まもなく訪れる春の気配を感じた。
 



そして開いた花の名を、





(10.03.15//ギリギリで遅刻でしたorz)