※スザク→←ルルーシュ♀ すれ違いバレンタイン 枢木スザクには想い人がいる。ここ、アッシュフォード学園高等部では有名な噂だ。具体的な相手をけっして明かさないその男は、告白されれば必ずこう返すのだ。「ごめんね、僕には昔からずっと好きなひとがいるんだ」と。 噂は事実だと知っていた。クラスメイトが枢木スザクに告白する現場に偶然居合わせてしまったからだ。(そう、あれは中庭で穏やかな午睡をむさぼっていたときだ。近づいてくる人の気配に意識が覚醒し、そして耳が拾ったのが「スザク君、好きです!」「ごめんね、僕には昔からずっと好きなひとがいるんだ」という一連の会話だった) スザクは、出自を偽って学園に通っている「ルルーシュ・ランペルージ」がかつて幼少時代を共に過ごした「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」であることを知らない。昔は短く切りそろえていた髪は、今では腰に届く豊かさだ。かつては身につけたことなどなかったスカートも今では日常的に身につけている。(だって、制服がスカートなのだから!選択肢などない) 再会したとき、気づいてほしいと思う反面、かつて手折られたほのかな恋心が痛んで気づかないで、とも願った。そう、スザクに渡した初めての「本命チョコレート」は、いっそ清々しいほどに何の反応も生まなかった。おいしい、といって平らげただけ。スザクは、そこに詰まったルルーシュの想いには露ほども気づいていなかった。 アッシュフォード学園高等部に転校してきたスザクが何も気づかないことに少し落胆して、それから、もう一度「ルルーシュ・ランペルージ」として、スザクの心が動かせたなら。そう思っていた。しかし、柔らかい人当たりと抜群の運動神経をもって瞬く間に人気者となった彼が告白を受けるまでにそれほどの期間は必要なかった。瞬く間に、彼の告白に対する断り文句は噂となり、謎に包まれた「昔からの想い人」の存在はルルーシュの耳にも入ってきた。手折られた花は二度と成長しない。手折られてしまったルルーシュの想いが彼の手の中で花開くこともない。そう、わかっているのに。 ――それでも、めぐり来る2月14日に、ルルーシュは作ってしまう。甘くて苦いまぁるい菓子を。永久に開かぬかたい蕾にも似た、 「スザク…これ、作りすぎてしまったんだ」 そういって、チョコレートを差し出してきたのは、訳あって日本国首相、枢木玄武――つまり、僕の父さんのもとに留学してきたブリタニアの皇子、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだった。流暢な日本語を話し、日本の文化にも精通している彼は、日本流のバレンタインデーの慣習もしっかり調べ上げ、手作りの「義理チョコ」を配ることも忘れない。(作りすぎた、というのが照れ隠しだなんて知っている) 少々やんちゃをしていた自覚のある俺は、母さんやお手伝いのお姉さんたち以外からもらうチョコが珍しくて、何の気もなしに受け取った。簡易ラッピングの袋を開けて、すぐに1粒トリュフチョコレートを口に放り込む。苦いココアパウダーが甘くとろけるチョコレートと混ざって口腔を満たす。 「ん、うまいな!!」 「そうか。なら、よかった」 そういった彼の白い頬が薄く色づいていたことには気づかない。作りすぎた、なんて照れ隠し。でも、そのときの俺はまだまだコドモで、手作りのトリュフチョコレートが「本命」だったなんて、知らなかった。1ヶ月後のホワイトデー。ほのかにともった彼の期待なんてこれっぽっちも気づくことなく通り過ぎて。 そうして、僕が遅まきながら、彼への想いを自覚したのは、彼がいなくなってからだった。そう、日本と開戦した敵国・ブリタニアの皇子さまは、国に帰ってしまった。僕の胸に消えない感情だけを残して。 「、スザク!」 「あ、ルルーシュ。どうかした?」 「あの、これ…」 「わあ!僕にもくれるんだ、チョコレート!ありがとう!!」 「スザクには、いつも世話になってるから…」 「女の子は大変だね、みんなに義理チョコ配るの、大変でしょう」 「…その、それは…!」 「あ、これって、トリュフ…?………懐かしいなぁ」 (もしかして…?) ルルーシュの胸に淡く希望がともった。覚えて、くれていたのだろうか。あの、遠い日にも渡したあのチョコを。 「僕の好きなひとも作ってくれたことがあるんだ」 「そ、う…」 呟くスザクの目がひどく懐かしそうに虚空を滑る。浮かんだ笑みが淋しげで、胸の奥がきゅっと絞られた。その心を掴んでいるのは、ここにはいない誰か。名も知らない、誰か。 ほんの僅かな期待が刃になって胸を裂く。わかっていたはず、なのに。 耐えられなくなって、ルルーシュはその場を後にした。だから、こぼれた呟きも聞こえない。 「ルルーシュって、名前といい、瞳の色といい、…本当、そっくりなのに」 (そう、遠い日のルルーシュは男の子で、手の届くルルーシュは女の子。だから、ちがう、ひとなんだ) あの日手折った花の名は、 (10.02.14//KYですいませんorz) |