しあわせかぞくけいかく









「これで5人家族の完成!」
「…ちょっと待ってください!いくらなんでも兄さ…じゃなくて、ルルー、シュ、たちの本当の家族が来たのに僕が一緒にいるわけにはいかないです」
「まぁ…ロロ!そんな悲しいこといわないで?私もシャルルもにぎやかな家族生活を楽しみにしてるのよ。それにあなた、“兄さん”呼びがすっかり板についてるじゃない!」
 ふふふ、と口許に手をあてて笑うマリアンヌに、ロロは頬を染めた。
「そうだぞロロ。いきなりやって来たのは母さんたちなんだから、むしろ遠慮すべきなのはあっちなんだ」
「ロロお兄さまはご家族がいないんでしょう?5人で家族、とっても素敵だと思います!……それとも私たちと暮らすのはイヤ…ですか?」
「そんなことないよ、ナナリー」
「じゃあ、今日から本当に5人家族ですね!!」
 話が強引にまとまったところで、黙っていたシャルルが口を開いた。
「で、お前たち。今はどこで生活している?」
「アッシュフォード学園の寮です、お父さま」
「…ナナリー。それは本当か」
「本当です…けど…?」
 何かおかしいのだろうかと首をかしげるナナリーにシャルルは鼻息も荒く叫んだ。
「ならーんっ!それはならんぞ!!同じ国にいて同じ姓を名乗りながら、ひとつ屋根の下でないなど言語道断!!」
 一拍置いてパチパチパチ、と手を叩く音が響いた。
「そうとなったらやるべきことは決まってるわよね?シャルル」
「もちろんだ、マリアンヌ。わしはマイホームを買う!そして5人で住むぞ!!」
「そうこなくっちゃ!!」
 大人ふたりが盛り上がる横で展開についていけないルルーシュがほうけたように華やいだ空気を吸っていると、後ろから声がかかった。
「あれ、ルルーシュにナナリーにロロ?そんなところでどうしたの?」
「…スザク!」
 ほっと息をついたルルーシュにスザクが駆け寄った。
「………あれ、もしかして君たちのお父さんとお母さん?」
「そうなんだ。いきなり皇帝やめて日本に来てランペルージになるから一緒に住む家を買うとか言って……」
 言葉にして改めて事態の突拍子のなさを実感したルルーシュは額を手でおさえた。
「兄さん大丈夫…?」
「…ああ、心配いらないよ、ロロ」
 一通り事情を聞いたスザクは、そういうことなら、といって笑った。
「僕が住んでる枢木の別邸の隣りに丁度よさそうな一戸建てがあるんだけど…どうかな?あの辺りは環境も悪くないよ」
「お前は枢木首相の息子なのか」
「あ、はい。はじめまして。枢木スザクです。学校ではルルーシュのクラスメイトです」
「よし、一度見にいってみるか」
「そうしましょ!スザク、案内してくれるかしら?」
 にこにこと微笑むマリアンヌに、スザクもまた笑い返した。
「わかりました。早速ご案内します」




 **




 着いた先は閑静な住宅街で、中でもひときわ目をひく立派な塀が続いているのが枢木家の別邸だった。塀が途切れた先に白い柵が続いている。
「ここからがさっきいった家です」
 枢木家の純和風建築とは百八十度趣の異なる洋風建築だ。比較的枢木邸よりのところに門があり、スザクは躊躇なく中に入っていく。
 中には芝生が青々とみずみずしく広がり、趣味の良い噴水がさわやかな水の音をさせていた。家屋に続く小道にはゆるやかに曲線を描くアーチが続く。
「……スザク。これ、本当に空き家なのか?」
 人の手が入っていない屋敷はあれるものだ。なのに、ここにはその気配すらない。加えて、さも当たり前といった様子で門の中まで踏み込んでいくスザクだ。おかしい。
「あー…それはね、ここが枢木の所有するいわゆる迎賓館のようなもので、諸外国の来賓が泊まれるように洋風に建てたから。あ、でも最近ほとんど使うことなくて勿体ないし、ルルーシュたちが住むなら丁度だと思って。ほら、5人で暮らすのに十分な広さだし、隣りに住んだらいつでも一緒に遊べるでしょ?」
 衒いなく告げるスザクに、ルルーシュはいささか決まりの悪さを感じながらもそうだな、と返した。
「ふふ、うちの長男も隅に置けないわねー?ま、そういうことなら今後ランペルージ家の城はここってことで、異論はないわね?」
「当然だ、マリアンヌ」
「素敵なお家でうれしいです!」
 特に発言はしないものの、ロロも微笑を浮かべて事態を見守っている。
「よぉし、ロロもオッケーね?…じゃあ、早速ジャンケンよ!みんな手を出して!いいわね?」
 何のためのジャンケンなのか、マリアンヌの思考についていけない一同が目を白黒させる中、容赦なく声は響いた。
「だっさなーきゃ負けよー、ジャンケン、ポン!!」




 ジャンケンで見事な一本勝ちをおさめたのはスザクだった。
「あら、スザク。あなたの勝ちね!そしたら好きな部屋を選んで」
「え…部屋って……僕の家は隣り「スザク。これは部屋の選択権争奪ジャンケンだったのよ?勝ったあなたが選ばなくてどうするの!」
「はぁ…」
 早く選んで、とばかりにスザクの背を押して邸内に入っていく。2階にあがった手前の部屋に入り、スザクがここにします、というとマリアンヌは大きく頷いた。
「よし!そしたらここ以外の部屋で自分の好きな部屋を選ぶのよ!早い者勝ちだからね。……よーい、ドン!!」
 ナナリーが駆け出し、マリアンヌが続く。つられるようにしてロロも走り出した。
 たちまち邸内のあちこちから扉を開いては閉める音、廊下を駆ける音が響き渡る。スザクの隣りで立ったままそれを聞いているルルーシュは、とても、これ以上はないほどに平和でしあわせを形にしたような音だと思った。
「……ところで、父上は部屋の争奪戦には参加しないんですか」
「わしはマリアンヌと同室にするからな。あれに任せた。それよりお前は」
 と、そのとき。バタバタバタ!ふたつの足音が絡み合うようにして近付いてきた。
「兄さん!!」「お兄さま!」
「…どうしたんだ、ふたりとも。部屋は決まったのか?」
「僕は兄さんの部屋の隣りが良いんだ!兄さんが決めてくれないと選べないじゃないか!」
「そう、です。早く、決めて、ください、お兄さま!」
 肩を上下させるナナリーに詰め寄られ、ルルーシュはゆっくりと目許をゆるめた。
「ふたりとも、仕方ないなぁ…。俺はここの隣りの部屋で良いよ。まだ誰も選んでないだろ?」
「スザクさんの隣り…!」
「ということは………兄さんの隣りは残りひとつ…」
 間をおかず、弟妹が鋭い視線を互いに向けた。
「ロロお兄さまはお兄さま、ですよね?」
「ナナリーは女の子でしょ?」
 無言の応酬が飛び交った。ルルーシュは苦笑してふたりの間に立つ。
「何も隣りでなくても俺の部屋の向かいとか下とかでも変わらないんじゃないか?」
「…下!」
 先に目の色を変えたのはナナリーだった。ぼそぼそと独り言を呟く。
「…下ならお兄さまが部屋のどの辺りでどんなことをなさってるか天井一枚隔ててわかる…」
 うん、そうです。ひとつ頷くとナナリーは顔をあげた。
「ロロお兄さま!お隣りはお譲りします。私はお兄さまの部屋の下で」
「本当?ナナリーありがとう!」
 無邪気に笑うロロにナナリーもにこやかに応じたのだった。






しあわせの足音







「そしたら、いつでも来てくださいね。スザクさん」
「そうだ。お前の部屋もあることだしな」
「…うん、ありがとう」










(08.12.05//TV)