しあわせかぞくけいかく









「ルルーシュ!今年は一緒に初日の出を見に行こうよ!」
 スザクが除夜の鐘つき&初日の出&初詣スポットというフルコース年末年始特集を組んだ雑誌をもって帰ってきた。そして、開口一番の発言が先述のもの。こうしてルルーシュの下宿生活開始後初の元旦の予定は決まった。





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「………空が白んできたな」
「本当だ。……すごい、空の色がきれい」
「こら、スザク!よそ見するな!それに、このままだと日の出に間に合わないぞ」
「そうだった!急ぐよ」
 いうと、スザクは勢いよくアクセルを踏み込んだ。エンジンがうなりをあげて加速する。ルルーシュの左手の窓を瞬く間に景色が流れていく。


 日の出を見るなら水平線から出るのが見たい、といったスザクの要望で明け方前に家を出て車を走らせることに決めたのはいいものの、ルルーシュはいたって朝が弱い。きっとスザクが起こしてくれるだろう、と思っていたら甘かった。目覚めたとき、スザクはまだ夢の中だったのだ。
「早く起きろ!!お前が言い出したんだろう!?」
「ぅわ…!え、今、何時!?」
「5時だ!」
「い、急がなきゃ…!」
 あわただしく準備をして家を出たものの、日の出の時刻を考えると微妙だった。間に合うか、間に合わないか。太陽とにわか追いかけっこの予感。なんとしても逃げ切らなければならない。
「どうしてもっと余裕みて起きなかったんだ!」
「だって…ほら、ルルーシュと二人で初日の出見に行けるなんて楽しみで…昨日、寝付けなかったんだよ」
「お、まえは…っ!遠足前の幼稚園児じゃあるまいし…!」
 しかし、頭をかいて照れるスザクに毒気を抜かれてしまう。
 そうして、まだ車のまばらな国道をスザクの運転で海岸線を目指していた。時々刻々と太陽は空の色を変えていく。まだまったく顔を出していないのに、世界の色をこんなにも変えてしまう太陽の輝きの偉大さを思う。
 それにしても。
 滑らかな車の走りに今まで気にならなかったが。
「……お前、今何キロ出してるんだ!?」
「んー…」
 ちらり、とスピードメーターを見たスザクがにへら、と笑った。
「140キロ、みたい?」
「出しすぎだ馬鹿!!!」
「でもほら、みんな僕たちのために道を譲ってくれてるよ?この分なら日の出にも間に合うはず!」
 一蹴され、ほらほら、と東の空を視線で示される。先ほどの紫がかった色から明るい橙色に近くなってきている。淡いグラデーションをなす空は見事だった。
「きれいでしょ?…そろそろ、高速降りるね」
「一般道はさすがにスピード落とせよ?」
「大丈夫だって!」




 そうして着いた先の車道脇に車を止めた。すでに、堤防の上にまばらではあるが人が立って海の向こうを見ている。
「僕たちもあの上にのぼろっか」
「ああ」
 まず、スザクが軽やかにのぼり、ルルーシュも続こうとする。しかし、思ったよりものぼりにくい。スザクを見る限り簡単そうだったのに!内心舌打ちするルルーシュを見てスザクが笑った。
「ほら、手、貸して?」
「大丈夫だ、これくらい一人でのぼれる!」
 伸ばされた手を振り払って腕に力を入れるものの、今一つ力が足りず、身体を持ち上げきれない。ひとしきり足掻いたあと、無言で伸ばされる手。スザクは笑いを噛み殺しながらその手を取り、軽々と引き上げた。
「体力馬鹿め…!」
「ルルーシュがなさすぎるんだよ」
「うるさい!!」


 いつもの応酬をしていると、少し離れた場所で立っていた人々が歓声を上げた。あわてて二人も海の向こうへ向き直る。今まさに、太陽が水平線から頭を出そうとしていた。
 視覚に全神経を傾け、固唾をのんで見守る中、太陽はスローモーションで早送りされた映像のようにその姿をあらわしていく。出始めた太陽がこれほどまでにあきらかな速さで動くなんて、知らなかった。
「す…ごい……」
 スザクの漏らした感嘆に、ルルーシュも視線は動かすことなく応じる。
「……これだけのスピードで地球は回ってるんだな…」
「でも、これを見ると昔のひとが太陽が動いてるって思ってたのも納得できるな」
「それもそう、だな」
 海から吹きつける風にルルーシュが身を震わせた。
「寒いよね。大丈夫?」
「大丈夫、だ」
 コートの袖から出た指を擦り合わせているのを見て、手を取った。
「ほら、僕って体温高いからあったかいでしょ?」
「……ああ」
 大学生になったふたり。それでも、つないだ手は振り払われず、スザクの指にからめられている。


(こんなしあわせが、来年も、その次の年も、つづいていきますように)


 指先の温度を分け合いながら、まだルルーシュを温めるには冷たい冬の太陽が海面に映ってキラキラと輝いている様を見つめていた。








まわる地球で続く明日へ








「しまった…!!」
「どうしたの!?」
「ケータイで写真撮ってナナリーとロロにメールするつもりだったんだ。なのに…俺としたことが見惚れてすっかり忘れるなんて…」
「まだ間に合うよ!そんなに昇りきってないし!」
「そ、そうだな!よし…!」
 携帯を取り出すために離れていった指が名残惜しく、一気に寒気を感じたスザクはぶるりと身震いした。もどかしい距離から踏み出せずにいる自分。ああ。こんなにも近くて、こころはまだこんなにも、とおい。










(09.01.03//ともだち以上、こいびと未満)